雇用している外国人労働者が不祥事を起こしたときの企業の責任とは?
外国人を雇用しているとき、心配なのはその人が何らかの不祥事を起こすことではないでしょうか?
日本の交通事情に不慣れで交通事故を起こす可能性もありますし、公共料金や家賃、電話代などを滞納するかもしれません。最悪のケースでは犯罪行為をしてしまう可能性もあります。
また、孤独死してしまったら企業が何らかの責任をとらないといけないのでしょうか?
今回は雇用している外国人労働者が不祥事を起こしたとき、企業に発生する責任について解説していきます。
1. 交通事故のケース
1-1.使用者責任
雇っている外国人労働者が交通事故を起こした場合、雇用している企業に責任が及ぶケースがあります。それは、労働者が「仕事中や仕事に関係して」交通事故を起こした場合です。
その場合、労働者だけではなく雇用者にも「使用者責任」が発生します。
自動車保険に入っていない限り、会社も被害者に賠償金を払わねばなりません。
1-2.刑事責任は会社に及ばない
ただし本人の「刑事責任」は会社には及びません。その労働者が刑事裁判になって罰金刑や懲役刑になっても、会社が罰金を肩代わりする必要はありません。会社が責任を負うのはあくまで民事の賠償問題のみです。また私的な交通事故であれば会社が責任を負うことはありません。
外国人労働者に営業者などを運転させるときには、きちんと運転技術を確認し、任意保険に加入しておきましょう。
2.犯罪を犯したケース
2-1.使用者責任
外国人労働者が犯罪を犯したら、企業に何らかの責任が及ぶのでしょうか?
基本的に、労働者が犯罪行為をしても雇用者に責任は発生しません。ただし犯罪が「仕事に関連して」行われたときには交通事故のケースと同様、責任が及ぶ可能性があります。この場合にも問題となるのは「使用者責任」です。
たとえば労働者が取引先を騙してお金をとったら詐欺罪ですし横領したら横領罪です。営業中に興奮して相手を殴って怪我をさせたら傷害罪ですが、このような場合、使用者責任によって会社が慰謝料を払わねばならない可能性があります。
使用者責任は「仕事に関連する行為」についてのみ発生するので、仕事とは無関係な私的な犯罪行為については、会社は責任を負いません。
ただしその場合でも、労働者に身寄りが無い場合会社に警察から連絡が来て、身元引受人にされるなど巻き込まれる可能性はあります。
2-2.刑事責任は会社に及ばない
使用者責任は民事の問題なので、労働者に成立する刑事責任は会社に及びません。会社の代表者や役員などが「処罰」されることはありません。
3.家賃滞納のケース
次に心配となるのが、労働者が家賃を滞納した場合です。このとき、会社が家賃を代わりに払わないといけないのでしょうか?
3-1.連帯保証人になっていたら会社に支払い義務が及ぶ
賃貸借契約は労働者と大家との契約ですので、従業員が家賃滞納しても雇用者が代わりに支払う必要はありません。
ただし雇い入れる際に雇用者が賃貸借契約の「連帯保証人」になっている場合は話が別です。
労働者が家探しをしているとき、「連帯保証人がいないと借りられないから契約書にサインしてほしい」と頼んでくるケースがありますが、そのようなときに会社や社長が安易にサインすると、後に家賃滞納されたときに会社や社長に支払い義務が及びます。
家探しの協力を求められたときには、連帯保証人になるのではなく保証会社を利用するなど、連帯保証人の要らない住宅を見つけるか自社の寮などに住まわせるのが良いでしょう。
3-2.労働者が行方不明になる問題
家賃滞納が続くと労働者が家から追い出されて行方不明となり、会社に来なくなることもよくあるので要注意です。家賃を払えなくなっているなら、対処方法の相談に乗ってあげましょう。たとえば給料の前借りを認めたり、家賃が高すぎるなら別の住まい探しを手伝ってあげたりすると良いでしょう。
知らない間に家賃を滞納して家を追い出されて音信普通になると困るので、家賃を払えないなどのトラブルがあったら会社に相談するよう、予め全員に通知しておくことをお勧めします。
4.公共料金や電話代滞納のケース
外国人労働者が公共料金や電話代を滞納したら、何か問題が起こるのでしょうか?
この場合、会社は連帯保証人にならないので責任を負うことは基本的にありません。
ただ、電話代を滞納すると労働者と連絡が取れなくなってしまう可能性が高まります。そのまま行方不明になって音信不通になるかもしれません。
そのようなリスクを考えて会社名義の電話を一台貸与しておくのも1つの対処方法です。
光熱費を止められると生活できなくなるので早急に支払うようアドバイスしましょう。
5.労災以外で死亡したケース
もしも労働者が知らない間に家で孤独死していたら、会社に何らかの責任が及ぶのでしょうか?
労災の場合には労災保険の申請などが必要ですが、労災以外の理由であれば企業に「法的な責任」はありません。
ただし遺族に連絡をとり、葬儀の方法などを取り決める手助けをすべきです。
埋葬方法について、日本では「火葬」となりますが外国では多くが「土葬」です。遺族が母国での土葬を希望する場合には、「エンバーミング」という防腐処理を施した上で、ご遺体を母国へ送る必要があります。その際、故人のパスポートや死亡診断書、エンバーミング証明書が必要です。この手続きには多額の費用がかかるので、遺族としっかり話をして決めるべきです。
遺族が「日本国内で火葬しても良い」という場合、領事館で埋火葬証明書を発行してもらう必要があります。
外国人労働者が不慮の事故で死亡した場合、会社に法的義務がないとしてもいろいろな手間やリスクが発生することが多いので、あらかじめ理解しておきましょう。
外国人労働者を雇っても、日本人以上に雇用者に特別の責任が発生するわけではありません。身構える必要はありませんが、犯罪や料金滞納、夜逃げなどされないように、雇い入れ時によく話をして相手を選別すべきです。また雇用後も異変をすぐに察知できるように、コミュニケーションをしっかりとっておくと良いでしょう。
ライター 福谷陽子
過去に10年間弁護士経験があり、現在はその法的知識を活かしてライターを行っている。労働関係や外国人の人権問題に詳しく、現役時代には多くの労働関係の交渉、訴訟などを取り扱っていた。現在も各種の労働関係メディアを始めとして、不動産や相続、交通事故などのメディアで執筆活動を続けている。