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退職した技術者についての企業の責任と権限

外国人技術者を雇っているなら退職時のことも考えておかねばなりません。

以下では外国人労働者が退職したときの企業の責任や権限について、解説していきます。

  • 外国人労働者が退職したらどのような手続きが必要なのか?
  • 外国人技術者の退職時、企業側に何か責任が及ぶのか?
  • 外国人の従業員が退職したら企業ができることは?電話や賃貸借契約の解約など、代わりにできるのか?

1.外国人労働者が退職したときの企業の責任

外国人労働者が退職したら、雇用者である企業は以下の手続をしなければなりません。

1-1.労働保険、社会保険の資格喪失届

退職したら、その労働者は雇用保険や健康保険から脱退しますので、会社が資格喪失の処理をしなければなりません。雇用保険についてはハローワークに、健康保険や年金については管轄の年金事務所に資格喪失届を提出しましょう。

1-2.入国管理局への届出について

外国人労働者が退職したとき、企業は入国管理局に退職の届出をしなければならないのが基本です。ただしハローワークに上記の「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出していれば入国管理局への届出が免除されます。

雇用保険に加入していなかった場合には退職後2週間以内に入管に「中長期在留者の受入れに関する届出」を提出する必要があります。

1-3.貸出物を返却してもらう

従業員に制服や携帯電話などを貸していた場合には、返却を受けましょう。

1-4.健康保険被保険者証の回収

退職後に使われると困るので、従業員に交付していた健康保険証の返還を受けます。

1-5.離職票の交付

外国人労働者がハローワークで雇用保険を受けとるためには「離職票」が必要です。労基署に申請して離職票を取得し、労働者に本人の控えを渡しましょう。

1-6.源泉徴収票の交付

その年度の源泉徴収票を作成して交付します。

1-7.退職証明書の交付

外国人労働者が転職する際には入国管理局で就労資格証明書の交付を受けなければなりませんが、その際退職証明書が必要です。退職時には発行して渡してあげましょう。

ここには雇用期間、業務内容、地位、賃金と退職の理由を書き入れます。

1-8.労働者本人への指示

退職したら労働者は2週間以内に自分で入局管理局へ届け出なければなりません。本人がそのことを知らないケースもあるので、指示してあげると良いでしょう。

 

2.外国人労働者が退職したときの企業の権限

外国人労働者が退職したとき、企業にはどのようなことができるのでしょうか?

たとえば労働者が個人的に契約していた携帯電話や不動産の賃貸借契約などを代理で解約したり、あるいは強制的に解約させたりすることができるのでしょうか?

2-1.勝手に解約することはできない

携帯電話の契約も水道光熱費の契約も不動産の賃貸借契約も、外国人労働者本人と相手との間の契約です。会社が関与していない以上、会社が強制的に解約させることはできません。労働者が自分から解約の手続きをしないなら、本人に言って自分で解約手続きをとらせる必要があります。

労働者が行方不明になっている場合などには、対処のしようがありません。ただし労働者の滞納家賃や光熱費、電話代などを企業が肩代わりすべき義務はないので大きな不利益はありません。基本的に放置しておくしかない状況となります。

2-2.代理で解約できるケース

そうは言っても労働者が自分で解除する方法がわからない場合や自分から積極的に行動しないケースもあります。そのような場合には、会社が本人の代理で解約手続きを進めることが可能です。そのためには、本人から「委任状」を渡してもらい、会社が契約の相手に示して手続きを進めます。

委任状には、委任する行為の内容(たとえば賃貸借契約の解除や携帯電話の解約)を明確に記載して、労働者本人に署名押印してもらいます。印鑑がない場合にはとりあえずサインをしてもらい、相手に提示しましょう。

2-3.会社名義になっているケース

会社が携帯電話を契約して本人に渡していたり、不動産を会社名義で借りて本人を住まわせていたりする場合があります。

このように契約当事者が会社となっているなら会社が自ら契約を解約できます。

携帯電話については電話会社に連絡を入れると解約できますし、不動産については大家に連絡を入れたら翌月から解約できることが多いです。水道光熱費についても会社名義であれば会社が解約できます。

また電話などの場合、解約せずに引き続いて別の従業員に貸すことも可能です。

2-4.賃貸不動産内の荷物について

不動産の賃貸借契約の場合、解約したら中の荷物を全部持ち出して明け渡しをしなければなりません。労働者本人が荷物の整理や引越作業にきちんと対応しない場合、会社が業者の手配などの手助けをしてあげた方がスムーズでしょう。

ここで本人がいない、対応しないなどの理由で会社が勝手に本人の荷物を処分してしまうと器物損壊や損害賠償などの問題が発生するおそれもあります。きちんと本人とコミュニケーションをとりながら荷物の整理を進めましょう。発生する引越業者の費用などは労働者本人に発生するものなので、会社が肩代わりする必要はありません。

外国人労働者が退職した場合でも、日本人労働者と異なる特別な手続きは少ないです。ただ本人が自主的に動けない場合も多々あるので、会社がサポートしてあげるのが良いでしょう。また会社名義の契約があれば、早めに解約の手続を済ませましょう。

 

 

ライター 福谷陽子

 

過去に10年間弁護士経験があり、現在はその法的知識を活かしてライターを行っている。労働関係や外国人の人権問題に詳しく、現役時代には多くの労働関係の交渉、訴訟などを取り扱っていた。現在も各種の労働関係メディアを始めとして、不動産や相続、交通事故などのメディアで執筆活動を続けている。

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