1. HOME
  2. 特集
  3. 外国人労働者と仕事中の暴力行為について

FEATURE

特集

外国人労働者と仕事中の暴力行為について

外国人労働者を雇用しているとき、どうしても職場でいざこざが起こって暴力沙汰になってしまうケースがあります。

日本人の上司や同僚が外国人労働者を殴るケースもありますし、我慢できなくなった外国人労働者が反撃してしまうこともあるでしょう。外国人労働者の方から日本人の同僚に手を出してしまうケースもみられます。

このようにして暴行や傷害事件が発生したら、雇用者としてどのように対応すればよいのでしょうか?

以下では外国人労働者の仕事中の暴力行為への対処方法を解説していきます。

1.暴力によって成立する犯罪

日本人が外国人労働者へ暴力を振るった場合でもその反対のケースでも、暴力を振るった側には「犯罪」が成立します。

外国人であっても日本にいる限りは日本の刑法が適用されるので、日本人と同じように被害者や加害者となります。

暴力によって成立する可能性のある罪は、以下のとおりです。

1-1.暴行罪

暴行罪は、人に対して不法な有形力を行使したときの成立する犯罪です。つまり相手に強い威勢を示して迫ったり殴る、蹴るなどの暴力行為をしたりをすると暴行罪となります。

暴行罪が成立するのは相手がけがをしなかった場合に限られます。

刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。

拘留というのは30日未満の期間、刑務所や拘置所内に収容される刑罰です。1か月未満の禁固刑と考えるとわかりやすいです。

科料は1万円未満の金銭支払いの刑罰です。金額の低い罰金刑と考えるとわかりやすいです。

1-2.傷害罪

傷害罪は、暴力行為によって相手にけがをさせたときに成立する犯罪です。暴力を振るっても相手がけがをしなかったら暴行罪、相手がけがをしたら傷害罪になると考えましょう。

傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

相手が重傷になればなるほど適用される刑罰が重くなっていきます。

2.反撃した場合の「正当防衛」について

日本人労働者が外国人を殴った場合、外国人が我慢できずに反撃するケースがあります。このとき「正当防衛」が成立する可能性があります。

正当防衛は、自分の身に緊急の危険が発生しているときに必要やむを得ない範囲で反撃するときに違法性がなくなるという考え方です。

日本人からの暴力が危険なもので、外国人労働者が身を守るために必要な範囲で最低限の反撃をしたのであれば、正当防衛が成立する余地があります。

ただ、反撃をきっかけとして外国人労働者の方からも積極的に殴り続けてしまって普通の「喧嘩」になった場合や、日本人からやられた以上に激しくやり返した場合などには「必要やむを得ない」範囲とは言えないので正当防衛は成立しません。

3.それぞれのケースで成立する犯罪

事業所内で暴力事件が起こったとき、どのような犯罪が成立するのかケースごとにみていいきましょう。

3-1.日本人が外国人に暴力を振るった

暴力を振るった日本人に暴行罪または傷害罪が成立します。外国人がけがをしなかったら暴行罪、けがをしたら傷害罪です。

3-2.日本人が外国人を殴り、外国人が反撃した

日本人には暴行罪または傷害罪が成立します。外国人に正当防衛が成立する場合、外国人は無罪です。正当防衛にならない場合、外国人にも暴行罪または傷害罪が成立します。

3-3.外国人が日本人へ暴力を振るった

日本人がけがをしなかったら外国人に暴行罪が成立します。けがをしたら傷害罪となります。

 

4.社内で暴力事件が発生したときのリスク

もしも社内で暴力事件が起こった場合、企業にどのような不利益が及ぶのでしょうか?

4-1.従業員が逮捕される可能性と会社が受ける不利益

暴力事件が起こって被害者が警察に被害届を出したり刑事告訴をしたりすると、警察が加害者を逮捕したり起訴したりする可能性があります。そうなったら会社としてもさまざまな対応に追われますし、周囲に暴力沙汰を知られることによる評判低下も懸念されます。

4-2.民事の賠償責任について

会社は「加害者」を雇用しているので「使用者責任」を負う可能性があります。また職場環境への配慮が足りなかったことを理由に「安全配慮義務違反」となる可能性もあります。これらの責任が発生すると、会社も加害者と連帯して被害者に慰謝料や治療費を支払わねばなりません。

5.暴力事件への対処方法

5-1.小さな喧嘩、いざこざの場合の対処方法

小さな喧嘩やいざこざの場合、なるべく示談することをお勧めします。示談とは被害者と加害者が話し合いをして、慰謝料などの損害賠償を行い和解することです。

自分達で示談して解決できれば警察に被害届を出したり刑事告訴したりしないので、警察沙汰になりません。当事者は感情的になってお互いに話をしにくいでしょうから、会社が間に入って話を進めましょう。

また会社に責任が発生する場合、会社が被害者に対して補償を行い、加害者本人の負担部分については後に加害者に請求するとスムーズです。

5-2.重傷を負った場合の対処方法

暴力行為で一方が重傷を負った場合、加害者にはきちんと刑事罰を受けさせた方が良いでしょう。被害者に被害届を出させるか会社が警察に知らせるなどして、警察に判断を委ねます。ただ被害者自身が「処罰は望まない」と言っている場合、無理に警察沙汰にする必要はありません。

また問題を起こした従業員に対しては、懲戒解雇などの厳しい措置を検討すべきです。

さらに会社に責任が発生するケースでは、被害者にきっちり補償を行い、加害者本人には後から加害者の負担部分を請求しましょう。

5-3.労災申請について

仕事中、いきなり相手から殴られたりして労働者がけがをした場合、労災が適用されます。一方、自分も反撃して喧嘩になった場合には労災にならない可能性があります。労災になる場合には必ず労働基準監督署に報告をして、適切な労災保険による補償を受けさせましょう。

5-4.社内での注意喚起

暴力事件が起こると、会社にも責任が発生するケースがありますし従業員の士気低下も招きます。今回の事件を教訓といて、今後そういった暴行事件が二度と起こらないよう従業員に注意を喚起して「暴力は許さない」雰囲気を作っていきましょう。

5-5.暴力事件があったときにやってはいけないこと

暴力事件があったときにやってはならないのが、「もみけし」です。外国人が殴られても「なかったこと」にして労働者を泣き寝入りさせるのです。これではいつまでも外国人への偏見や暴力がなくならず、悪しき風習が続いてしまいます。

暴力沙汰が生じたら、きちんと加害者に慰謝料を支払わせる、懲戒処分をする、警察に報告するなど何らかのペナルティを負わせるべきです。

外国人労働者を雇っていると、日本人のケース以上に暴力沙汰も発生しやすい場合があります。今後の対処方法の参考にしてみてください。

 

ライター 福谷陽子

 

過去に10年間弁護士経験があり、現在はその法的知識を活かしてライターを行っている。労働関係や外国人の人権問題に詳しく、現役時代には多くの労働関係の交渉、訴訟などを取り扱っていた。現在も各種の労働関係メディアを始めとして、不動産や相続、交通事故などのメディアで執筆活動を続けている。

特集